第30回 ぐんまこどもの夢大賞 童話部門・最優秀賞
「おもいで駅」 作/田中 柚菜さん (伊勢崎市立植蓮第二小学校 六年)
これは私が高校三年生の夏の出来事だ。私の名前は風香、今は自然写真家として山々を飛び回っている。
「お忘れ物ですよ。」
駅員さんに呼びとめられ、私はふり返る。
「またか…。」
私はベットの上でため息まじりにつぶやいた。最近毎日同じ夢を見ている。そして毎回ここで目が覚めるのだ。
「忘れ物?」
いったいなにを忘れたんだろう?気になるのに続きは見られない。
「あの駅どこだろう?見覚えないんだよなー。」
私は記憶を探ってみたけど、思い当たる駅はない。それにこの夢には小学生くらいの男の子が出てくるんだけど、これがまた顔がわからない。顔のあたりにボャ~っとモヤがかかったようにハッキリしないのだ。夢の中の事とはいえ、毎日見るのだからその男の子も駅も気になって仕方がない。ただなんとなく私が小さいころ毎年夏休みに遊びに行っていた、田舎に似ている気がするのだ。そこには母の祖父母が住んでいる。私はそこで過ごすのが大好きだった。家の周りにはコンビニなんてないけれど、緑がいっぱいで自然豊かな本当に気持ちのいい場所。まどを開けて、風を感じながら宿題をかたづけるのも、川で水遊びするのも、虫の声を聞きながら、ねむりにつくのも、蚊にさされるのはいやだったけど、とにかくすべてが私のお気に入り。中でも家のわき道を少し行くと山がある。山と言ってもそれほど大きな山ではない。ちょろちょろとわき水が作る小さな川とその先には、小高い丘もある。小さな山にたくさんの自然がつめこまれているこの場所が、一番好きなの。一日中歩き回ってもあきないんだもん。
「なつかしいなぁ…。」
そんな事を考えながら、いつも通り学校へと向かう。最後に行ったのは、小六の夏休みだったけ?中学になると部活がはじまり、行く時間もなくなってしまい、そのうち田舎で過ごした事もだんだんと忘れてしまったのだ。私はふと、今年は久びさに行ってみよう!そう思った。なんだか行かなくてはいけない気がしたのだ。学校もあと一週間で夏休み。そうと決まれば、急いで家に帰り祖父母に連絡を入れた。祖母は快くOKしてくれた。私は今から楽しみで仕方ない。鼻歌まじりに宿題をはじめる。やる気が出るってもんだ。
そしてついに待ちに待った日がやってきた。私は電車で向かうことに決めていた。電車に乗れば何かヒントがみつかると思い大きなバッグを持って家を出た。私は胸をはずませ、少し小走りで駅へ急いだ。電車にゆられ夢のはじまりから思い返してみた。
「はじまりはやっぱりあの山かも…。」
あの緑がいっぱいの感じ、あの空の青…。
「とにかくあの山に行ってみよう。」
ワクワクしながら到着を待った。
駅に着くと祖父がむかえに来てくれていた。
「よく来たねぇ。風香。大きくなったのぉ。何年ぶりかのぉ?。」
「小六の時以来だから、六年ぶりだよ。おじいちゃん急に来てごめんね。」
私は申しわけないと頭をさげた。
「いゃー会えてうれしいよ。ばぁちゃんも楽しみにまっとるよ。」
おじいちゃんは顔にシワをいっぱいよせて笑った。この笑顔が大好きで私もくしゃりと笑った。家ではおばあちゃんが、たくさんのごちそうを用意して待っていてくれた。私はおいしそうな料理にグ~ゥとおなかが鳴った。
「あらあら、お昼にしようかね。」
おばあちゃんが笑って言った。
「よし!出かけよう。」
私はお昼をたらふく食べて、おなかをさすりながら家を出て山へと向かった。
「本当に久しぶり。全然変わってないや。」
山の入口まで来て、私の心臓がドキリと鳴った。
「やっぱりこの山だ。」
そのしゅん間、あの夢の中にスーっと入った感覚におちいった。ここは夢か現実かわからない。でも。
「進もう。」
その時パッと色が消えて、空も地面も木もすべてが白くぬり絵のようになってしまった。
「え?何?どういう事?」
私はパニックになり目をパチクリさせていると、真っ白な地面に足あとがポーっと浮び上がってきた。
「うわっっ‼」
びっくりして私はしりもちをついてしまった。よくよく足あとを見ると『こっちだよ』と小さな文字が浮かび上がっている。私は、おそるおそるその足あとをたどって行った。すると、
「ここ、初めてこの山に来た時、迷子になった場所だ。その時、男の子に助けてもらったんだっけ。」
それ以来その男の子と私は、毎日一緒に遊んだんだ。その子が内緒にしてほしいと言ったから、私はその子と秘密の友達になったのだ。しかし顔も名前も全然思い出せない。考えていると、真っ白だった景色に青色だけパッとついた。青い空に青い花、青い屋根の山小屋。
「あっあの山小屋。」
見覚えのある山小屋に、急いで向かった。
「山の中で見つけたアケビや木イチゴを、ここで二人でこっそり食べたんだ。」
小屋に入るとまたちがう色がついた。今度は赤、黄色、むらさき。カラフルな色だ。足もとに一つの赤いビー玉が転がっているのが目に入った。
「ビー玉…。たしか…。かくしたっけ?」
私は記憶を探った。
「あの場所だ。」
走って向かったのは、どうくつ。このどうくつの中に宝物のビー玉をかくしたはず。
「やっぱりあった。」
色とりどりのきれいなビー玉たちを見つけた。どうくつの上は丘になっていて、夏祭りの時花火がよく見える、二人だけの秘密の場所だった。毎年花火を見ながら、二人でいろいろなことを話したんだ。小六の夏『来年は中学で急がしくなるから、ここには来られなくなる』と話した時、私達は『タイムカプセルをうめよう』と決めたっけ。
「タイムカプセル…。」
あっ!また色がついた。緑と茶色。山の中が一気に息を吹き返した。辺りを見わたすと、ひときわ緑のこい立派な木が立っているのに気づいた。
「あの木だ。あの木の下にうめたんだ。」
六年前?もう無いかもしれない。私は期待と不安でドキドキしていた。汗だくになりながら木の根元をほると、小さなカンカンが見えてきた。
「これだ。あったよ!」
私はジャンプして喜んだ。カンを開けると、
「手紙と花火を閉じ込めたような特別なビー玉が一つ、あと切符?おもいで駅行き?こんな駅あったっけ?」
顔を上げると目の前に、駅が現れた。
「切符はい見します。」
駅員さんが声をかけてきた。私はカンの中の切符を見せた。
「おもいで駅行きですね。2番線へどうぞ。」
私はホームで電車を待った。しばらくすると電車がやってきた。ドアが開いて中に入ると、たくさんの人達が乗っている。みんな何か、考えこんでいる様に見える。私は車内で手紙を読んだ。
「六年後、また一緒に見よう。約束だよ。」
と書いてあった。
「一緒に…何を?。」
私も考え込んだ。
「次はおもいで駅、おもいで駅。」
「ここで降りるのか…。」
駅のホームに降りると、駅員さんがやって来て、
「お忘れ物ですよ。」
私はふり返る。すると、駅員さんが私のおでこにふれた。そのしゅん間、頭の中に思い出が一気にかけめぐった。
「一緒に見るのは花火だ!夏祭りの花火。あの子は葉だ!。」
とさけんだ。ハッとして周りを見るともとの山の入口に立っていた。私は思い出せたうれしさでいっぱいだった。
夏祭りの夜、私はあの丘へと向かう。
「葉はどんなふうになってるかな?何話そう。」
丘につくと人かげが見えて
「葉ー‼」
私が呼ぶと、その子はふり返り笑って
「風香!待ってたよ!」
と言った。
「ここに座ろっか。」
私と葉は石に座った。
「久しぶりだね。風香にまた会えてよかった。来てくれてありがとう。」
ヒュ~~ド~ン
「花火はじまったね。私も会えてうれしい。」
「今年で最後なんだ。」
「えっどういう事?」
「ぼくに会えるのは、子供のうちだけ。風香はもうすぐ大人だよ。」
「…。」
「風香は、ぼくの初めての友達なんだ。毎年夏が楽しみだった。風香が来る夏が。ありがとう。ずっと忘れないでね。」
花火が終わると葉は消えてしまった。
「葉!待って、待ってよ!まだ話したいの‼」
『またね』葉の声が頭にひびいた。
それから毎年この山に来て葉を探すけど会えない。でも風の音や光のゆらめきで葉を感じる気がする。そして私は写真家になって山の写真をとり続けているのだ。葉の『またね』を信じて、また会えますようにと。
おわり